つらぬくような軽いいたみ

毎日は書くことができない日記

美味卵屋のオムライス

 給料日前には財政は逼迫するが、いよいよ給料日が近づいてきてなんとか今月も持ちそうだとなると逆に財布の紐が緩み出す。別に今日は松屋豚めしでなくてもいいのではないか、と思い神田方面へ。
 昔バルチックカレーがあったガード下の異常に狭い一角。こじゃれたオムライス屋があることは前から知っていたが、何となく入りづらくて行ったことはない。いや狭くて混んでてこじゃれていたら入りづらくて当たり前なのだが。
 もう3年も前になる。バルチックカレーに一度だけ入ったときにささやかなドラマに遭遇した。縁者一人いない東京で何度も挫折しながらついに成功を掴んだ男。彼の唯一の話し相手であり、心の支えとなったカレー屋のおじさん。僕が居合わせたのは、男が店員に感謝の言葉を述べるシーンであり、そして店員のおじさんが彼の話をうなずきながら聞き、大阪で心配し続けた彼の親のありがたみを説くシーンだった。でも東京に来るたび訪れるはずだったカレー屋はもうない。
 そんなことを考えていたら永遠に美味卵屋には入れない。客も少なめだったので、思い切って入ってみる。中はもちろん狭いが、メニューにはイペリコ豚のサラミとかが普通にある。イペリコ豚もまさか自分が神田のガード下まで運ばれる運命にあったなんて思いもよらなかったことだろう。とりあえず、ジャガイモのクリームグラタン乗せオムライスを注文。オムライスの店なんだからオムライスを食べたい。でもオムライスだけじゃ淋しい。かといって具の方が華やかな牛肉の赤ワイン煮乗せとかはちょっと。しかも高いし。という流れるような妥協の産物。
 しかし出て来たオムライスは妥協どころではなかった。デミグラスソースと、とろとろの卵の下には真っ白なご飯とケチャップ色の蒸し鶏。オムライスってご飯が赤いものなんじゃなかったっけ、と違和感を覚えつつ食べる。おいしい。
 ここからは推測というか妄想になる。ケチャップライスを即座に作る調理施設の余裕はこの店にはない。かといって作り置きすればケチャップライスは劣化する。でも白いご飯の状態ならある程度保存は利く。いや、かけご飯なら少し時間を置いたくらいでちょうどいい。それならケチャップと鶏は後から加える形になる。しかしわざわざ別添にするなら、デミグラスソースと調和しつつも、濃厚なソースに負けない味が当然必要。
 とにかく白いご飯と鶏がおいしい。でも鶏だけではもちろん足りなくて、卵とデミグラスソースでこの料理は完成する。オムライスというより高度な米料理だ。